中高年人材の活用を!


ドイツでも公的年金制度は火の車であり、年金の支給開始年齢は、近く65歳から67歳に引き上げられる。

つまり現在働き盛りの人にとっては、どんどん支給額が減っていくのだ。

一方、50歳の大台を超えると、会社の中でなんとなく肩身が狭くなってくるのは、ドイツでも同じこと。

リストラとなると、まず白羽の矢が立つのは、50歳以上の社員である。

そのことは、労働統計にはっきり表われている。55歳と64歳の間の就業可能者の失業率は、12・8%で平均を上回る。

ドイツの失業者の4分の1は、年齢が50歳以上の市民である。

55歳と64歳の間の市民のうち、働いている人の割合は45%にすぎない。

だがドイツでは、少子化と高齢化、移民の減少によって、近年人口が減少しているため、2050年頃には勤労者の数が大幅に減り、労働力の不足が生じると推定されている。

ヨーロッパには、中高年の人材をドイツよりも積極的に活用している国もある。

たとえば55歳と64歳の市民のうち、働いている人の比率は、スウェーデンでは69・4%、デンマークでは59・5%、英国では56・9%に達している。

フィンランドでは、1994年に中高年層の33・2%しか働いていなかったが、現在では53%に増加している。

ドイツで中高年層の就業率が、他の国に比べて低い理由の一つは、過去30年間に、年金支給水準が高かった時代に、58歳を過ぎると企業の早期退職制度を利用して、早々と引退してしまう人が多かったためである。

中高年層の間に「50歳代の後半になったら、新しい仕事など見つかるわけがない」という古い発想が残っており、企業もこの年代の人々を積極的に採用しようとしないため、スウェーデンやデンマークのように、中高年層が積極的に職探しをするという姿は見られない。

しかし、現在では公的年金、企業年金ともに当時のような高水準を維持できなくなっているので、中高年層にとっても、58歳で悠々自適の生活に入ることは不可能であり、第2、第3の職場を見つけることは、極めて重要になってきている。

メルケル政権のフランツ・ミュンテフェリング労働大臣は、今年から「50プラス」というキャンペーンを開始し、中高年層を労働市場に呼び戻し、就業率を高めるための努力を始めた。

政府はスカンジナビア諸国の例にならって、中高年層の就業を促すことが、生産性の低下にはつながらないことを、社会や経済界にアピールしていく方針だ。

ベビーブーマーが定年を迎えると、労働力の不足が懸念されるドイツにとっては、中高年層の人材をどのように活用していくかが、競争力を確保する意味でも鍵となるかもしれない。

(文と絵・ミュンヘン在住 熊谷 徹)

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保険毎日新聞 2006年9月